相続する資産を不動産に変えると相続税対策になる理由は、時価と相続税評価額に差が生じるからです。土地と建物それぞれに付けられた相続税評価額が時価よりも下がることで、相続税の課税対象額を抑えることができるのです。
土地は国税庁が定める相続税路線価という指標にもとづいて計算され、時価の8割ほどに設定されているので現金より2割もお得になります。また、小規模宅地などの特例や土地に賃貸物件がある場合は貸家建付地といい、自分で済む場合よりもさらに2割程度減額されます。この結果時価よりも4割ほども相続税評価額が下がる計算になるため、不動産投資は相続税対策になるといわれているのです。
しかし、相続税対策として不動産投資を行う場合リスクも0ではありません。正しい知識を持ち目先の金額に惑わされず計画的に運用しなければ逆に不利になる場合もあるのです。今回は相続税対策として不動産投資を考えている場合において逆にリスクとなってしまうポイントを挙げていきます。
目次
はじめに、相続税・贈与税改正を正しく理解する
税制改正により今までは相続税で税金の支払い義務が発生しなかった人でも、今後は課税される可能性が出てきました。相続税は改正前までは基礎控除額が5,000万円+(1,000万円×法定相続人)だったのに対し、平成27年1月1日改正後は3,000万円+(600万円×法定相続人)へと変わりました。
さらに相続税の税率構造も変化されています。1億円超~3億円以下までは一律40%の税率だったのに対し、改正後は2つに分類され2億円越~3億円以下は45%と新たに設けられています。6億円超の税率も追加され55%の税率となりました。 贈与税の改正では贈与時清算課税を受けることができる条件が加えられています。贈与者の年齢制限が65歳から60歳以上に拡大、今までは贈与を受ける側は20歳以上の推定相続人でしたが孫も適用されることになりました。
相続開始前の3年以内の贈与には要注意
贈与税と相続時精算課税制度の贈与税は異なることにも注意しましょう。贈与後3年以内に相続が発生すると相続税が課されます。そのためせっかく相続税対策として早めに贈与したとしても、3年以内に相続開始となれば意味がなくなるのです。
相続税を不当に軽減することを防止するために、相続開始前3年以内の贈与に関しては相続税がかかることになっています。例えば病気などを理由に急いで贈与してしまうと、計画が狂ってしまい3年以内に相続が発生するリスクがあります。
相続税を軽減させるなら長期的な目で対策を行い、計画的に実行する必要があります。そして、贈与することで節税効果が高いと判断される場合は、できるだけ早めに行動を起こすことが大切です。
相続する金額が少ない場合、贈与税の基礎控除額が低く税率も高くなるため損してしまいます。逆に相続する金額が高い場合、相続税を利用するより分割で贈与することでメリットが高くなることがあります。
しかし、相続税や贈与税にかかる法律も常に改正が行われていますから、まずはきちんと情報を知りどちらがお得になるのか調べてからにしましょう。その上で贈与することでメリットが高い場合、相続開始となる前にできるだめ早めに実行に移す必要があります。
関連記事:不動産を生前贈与する際に発生する税金とその節税について
不動産投資と相続税について
相続税評価とはどのようなものか、また不動産投資を相続対策に利用するために注意しておきたいことを紹介します。
建物に関する相続税評価
不動産を相続する場合、建物の相続税評価を決めるのは固定資産税評価額です。この価格は物件の建設にかかった費用のおよそ8割が相場とされるため、相続税の課税対象になるのは建設費用よりも少ない金額となるのです。また賃貸物件には借家権割合がかかり、その割合はおよそ30%とされています。これらを計算すれば、物件の建設費用よりもかなり抑えられた額のみが残り、その額だけに相続税が課税されるのです。つまり課税対象額を大幅に抑えられることになるわけです。
土地に関する相続税評価
土地の相続税評価に関しては、路線価を基準にして算出されます。路線価は1年に1度公表されるもので、毎年その価格は変動します。路線価は、本来の土地の適正価格とされる公示地価のおよそ5~6割となり、こちらも本来の土地の価値よりも相続税評価が抑えられることになります。さらに賃貸物件を建てた土地は貸家建付地評価が適用され、借地権割合と借家権割合がかかります。借地権割合は地域によって違いがありおよそ3割~9割とまちまちです。その他賃貸物件で200平方メートル未満の土地に関しては小規模宅地による特例が適用され、課税対象額を半分にまで減額することが可能です。これらを計算することで本来の土地の価格よりも減額された金額が相続税評価となります。
不動産投資と贈与税について
資産の所有者が生前に子や孫などに資産の贈与を行うと、その金額に対して贈与税が課せられます。この場合の資産は現金に限らず不動産や有価証券などについても同様です。
不動産の贈与を受ける場合、自分たちが住んでいる居住用不動産と不動産投資に利用している投資用不動産に分けることができますが、この2つの種類においては後述する特例などの適用条件が変わってきます。投資用不動産の場合は適用されない制度もあるため、注意が必要です。
不動産を生前贈与する場合、その課税対象額は基本的に相続税評価額で計算されます。相続税評価額は土地の場合公示地価のおよそ8割、建物の場合は建設費用のおよそ5~6割となりますから、購入した際の金額よりも課税対象額を抑えることが可能になります。さらに、贈与税には基礎控除があり、年間110万円までが控除されます。
また資産を生前贈与する際の贈与税について軽減することができる特例があります。それが相続時精算課税制度と呼ばれるものです。
これは、贈与税に関して軽減する一方で、相続が発生する際には贈与された資産と相続を受ける資産を合算して相続税を納めるものです。この特例は居住用不動産と投資用不動産の両方に適用されるため、不動産投資用物件の贈与の際にも利用することができます。
この特例では、資産に対して2500万円までの特別控除を受けることができ、それを超える部分には贈与税が20%かかります。また相続が発生した場合には納めた贈与税の金額が相続税から控除されるのです。この特例を受けるためには、贈与者が60歳以上・受贈者が20歳以上などの条件があります。他の特例として配偶者に贈与を行うおしどり贈与などがありますが、これは投資用物件には適用されないため、注意しておきましょう。
本来は投資用物件から毎月得られる家賃収入は所有者の資産となり、所有者が亡くなった場合には相続財産として相続税が課税されます。しかし投資用不動産を生前贈与した場合、家賃収入は贈与者ではなく受贈者が受けることになるため、相続税が発生しないのです。相続時精算課税制度を適用した場合は、家賃収入を将来的な相続税の資金とすることも可能です。
さらに贈与者の所得も減ることになり、所得税に対しても課税対象額を減額できるというメリットがあります。また、平成25年から相続時精算課税制度で贈与を受けられる受贈者について20歳以上の孫まで範囲を広げられました。これにより、不動産などの資産について贈与の選択肢が広がりました。
アパート建築自体は相続対策になるが評価額が上がる要因に注意
基本的にはアパート建築で相続税の節税対策になります。土地の評価額が下がるためで、やり方次第で節税効果が得られます。
アパートを建てるための土地は家貸付地となり2割程度の評価が下がります。例えば6,000万円の土地にアパートを建てた場合次のような計算となります。
6,000万円×(1-60%×30%)=4,920万円
6,000万円の評価額だった土地が、アパートを建てると借家権が発生し制約を受けるため、借地権が60%に借家権が30%で計算することができます。合計で6,000万円-4,920万円ですから、1,080万円評価額が下がったことになります。
相続税の評価が上がる要因は広大地評価
相続税の評価を上がる要因となるのが、広大地評価によるものです。広大地とは畑や山林など広い土地を売却する時、その一部を道路として分割しその他の土地を分譲することが予想される土地のことです。例えば地域により市街化区域なら500平米以上、その他の地域は1000平米以上などが条件となっています。道路となる部分が出るため評価の減額が受けられますからお得となりますが広大地の適用外となってしまえば、評価額が上がるため注意しなければなりません。
例えば通常の場合1平米20万円の土地を2000平米持っていたとしましょう。この場合の評価額が20万円×2000平米となり4億円となります。しかし広大地になる場合は計算式が異なります。
20万円×0.5×2000平米=2億円
このように評価額が半分まで下がりました。0.5をかけた部分が広大地補正率となります。土地の平米が大きくなるに従いこの数値は減少します。5000平米なら0.35をかけるため、評価はさらに低くなります。
20万円×5000平米=10億円と通常では計算されるはずなのに対し、広大地となれば20万円×0.35×5000平米=3.5億円の計算になります。10億円の評価額となるはずの土地なのに、広大地ともなれば3.5億円まで目減りさせることができるわけです。この差はかなり大きいといえますから、広大な土地を相続する際には注意する必要があります。
しかし、実際にはアパートを建てるためこの広大地評価は使えなくなってしまいます。広大地評価が4割程度まで下げられるのに対し、アパートを建てると2割程度の評価しか下がらないため損してしまいます。そのため相続税の評価も同時に上がることになり、思ったより相続税の節税対策にならないこともあるのです。
贈与税と相続税の損得の分岐点はどこにあるのか?
資産を相続する予定の場合、節税対策として贈与税と相続税どちらが高くなるか詳しく知る必要があります。生前贈与することで節税できるケースや、相続税の支払いのほうが安くなるなどさまざまだからです。これら贈与税と相続税は改正が行われていますから、正しい情報を知り対策をすることが重要です。
相続税の税率よりも、低い税率で贈与を行うことができれば相続税の節税になります
贈与税と相続税を比べると、基礎控除額と税率の違いがあります。贈与税のほうが基礎控除が低く、税率が高いのがポイントです。相続税の税率のほうが低いのは、生前贈与を利用し課税逃れができないようなシステムだからです。しかし、不利と思われる生前贈与でもその時期と対象者を調節することで節税対策につながることもあります。
例えば相続税の場合法定相続分人の取得金額が1億円超~2億円以下の場合は税率が40%になります。それより低い税率で贈与できれば節税できることになります。40%以下にするには最低でも基礎控除額110万円を引いた課税価格が600万円以下である必要があります。それを長年にわたり贈与していけば、結果的に相続税より節税になります。
リスクを理解しつつも節税対策として不動産購入する人が多い理由
1.現金のまま持っておくよりも大幅に節税できる
以前バブル時代に賃貸マンションの建設が相次いだのをご存知でしょうか?これは税金対策のためで、現金を持つより節税効果が高いと考えられていたためです。この理由は3つのメリットが得られるからです。
1つは更地を持っているより賃貸マンションとして持つほうが節税効果が高いからです。「賃家建付地」としての評価が得られるため、相続税の評価額が2割安くなります。
2つは現金と比べると建物のほうが相続税評価額が6割引きになるからです。現金はその額そのものが課税対象となりますが、賃貸マンションなら4割で済みます。さらに家賃収入としての利益を生むのですから、バブルの時期に人気が高かったのがわかるでしょう。
3つは小規模宅地の特例です。土地は5割引きとなり、不動産の貸付として使っている土地の節税効果が期待できます。
2.借金になると、相続税を差し引くことができる
相続税が課税される時、借金があればその分を差し引いてもよいとされています。例えば賃貸住宅建設のための費用、土地の購入代均などがそれに当たります。相続した時点でまだ借金が残っているなら、相続税の支払い対象となる金額から引くことができます。
万が一の際には相続税を極力減らすことができるため、残された子どもに負担をかけたくない高齢者にも便利でしょう。年金収入以外の余剰金として家賃収入を得られながら、もし子どもに相続させる機会が来れば、相続税の支払いが少なく子どもに資産を残すことができるのです。その段階でまだ住宅ローンの残りがあるなら、死亡保障が付いた保険で支払いがゼロとなる可能性も秘めています。
3.駐車場経営でも相続対策はできる
利用する目的がない土地が残されており、賃貸住宅として活用するつもりがないなら、その土地を駐車場経営するのも良いでしょう。このやり方でも相続税対策となります。
建物がある賃貸住宅と比べると固定資産税の額は高いものの、その代わり建築費用がなく維持費もほとんどかからないためローリスクローリターンとなります。相続税対策として運営するなら必ずコンクリート敷きにして建築物として扱われるようにしましょう。200㎡までなら5割引きの節税効果があります。注意したいのは砂利敷きだと更地と同じ扱いになり、固定資産税が高いため避けましょう。仮に車を10台止められると考えると、収入から固定資産税を引いても十分利益が出ます。経費は収入の半分くらいで収まることも多く、管理がほとんどなく毎月収入が得られるのはメリットが高いでしょう。
相続税の事例(シミュレーション)
例えば相続税評価4000万円の土地を更地のままにした場合と、賃貸住宅として活用した場合を比較してみましょう。更地の場合は4000万円全てに課税されてしまいます。
一方、賃貸アパートを建てた場合はどうでしょうか。建築費4000万円を全額投入、固定資産税評価額2400万円、借家権割合30%、借地権割合60%で考えるとします。
- 土地の評価額×(1-借地権×借家権)=4000万円×(1-60%×30%)合計で3280万円の評価額となります。
- 建物の評価額×(1-借家権)=2400万円×(1-30%)合計で1680万円の相続税評価額になります。
これら土地と建物にかかる相続税評価額は次のとおりです。
- 3280万円+1680万円-4000万円=960万円
賃貸アパートを建てると、3040万円の減額となりました。
さらに小規模宅地の特例により評価額が5割引きとなります。一定面積までは用途により大幅に減額される仕組みが適用できます。例えば200㎡の土地に賃貸住宅を建てれば特定貸付用地となり、5割引きとなります。最終的には次のような計算になります。
- 3280万円×50%+1680万円=3320万円-4000万円=-680万円
つまり相続税評価額が-380円となったわけです。
関連記事:節税は不動産投資の魅力の一つ。節税できる所得税・住民税・相続税などを解説!
きちんと計画を立てて不動産投資を
このように不動産投資は節税対策とはなりますが、リスクも考慮しなければなりません。賃貸経営で利益を得れば所得税や住民税がかかってきますし、老朽化すれば逆に修繕費がかかりすぎて利益を得られにくくなります。
考慮しておきたいのが老朽化した古いアパートを相続した場合、収益性の高い物件に変えるために、リフォーム費用などの修繕費が必要となることもあります。相続税が安くなるとはいっても、リフォーム費用のほうが高くなる場合は注意しましょう。もしそのような不動産を相続する場合は、予め業者に見積もりをしてもらい、リフォーム費用も運用計画に入れておく必要があります。
最終的には節税の度合い、利回り、空き家リスクや管理方法などを検討した上で踏み切るのがおすすめです。購入する際には金額だけで考慮せず、後先のことも考え収益性の高い物件を選ぶことが大切です。現金で相続するより不動産として譲り受けたほうが、節税という意味では大きな違いが出てきます。しかし自身で経営をしなければなりませんから、きちんと利益が出るノウハウや物件選びなどを考慮しておく必要があります。
そもそも節税以上に、収益性が出せず逆に修繕費が高額になりそうな物件にはできれば手を出すべきではありません。相続する物件が本当に節税になりそうかわからない場合は専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
不動産投資の税金に関して、以下を注意しましょう。
- 不動産投資が相続対策になる理由は相続税評価額
- 相続税・贈与税を正しく理解しよう
- アパート建築自体は相続対策になるが評価額が上がる要因に注意
- 相続税の税率よりも、低い税率で贈与を行うことができれば相続税の節税に
- 借金になると、相続税を差し引くことができる
- 駐車場経営でも相続対策はできる
- 収益性が出せず逆に修繕費が高額になりそうな物件には手を出さない
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